緊急声明

2023年10月11日

2023年10月6日に埼玉県議会福祉保健医療委員会「埼玉県虐待禁止条例の一部を改正する条例案」についてIPA(子どもの遊ぶ権利のための国際協会)日本支部特定非営利活動法人日本冒険遊び場づくり協会で協議し、共同声明を発出しました。

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2023年10月11日

各位

 

「埼玉県虐待禁止条例の一部を改正する条例案」に関する

共同声明の発出について

 

 

IPA(子どもの遊ぶ権利のための国際協会)日本支部 

代表 梶木典子

特定非営利活動法人日本冒険遊び場づくり協会

代表 関戸博樹

 

 

 

拝啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。

平素は、私たちの団体の運営にご理解・ご協力をいただき、厚く御礼申し上げます。

 

さて、皆様もご存じのとおり、10月6日に埼玉県議会福祉保健医療委員会にて、「埼玉県虐待禁止条例の一部を改正する条例案」が可決されました。本件に関しては、可決直後から、埼玉県内の子どもの遊びに関わる団体、子育て支援団体、PTAなどから撤回を求める意見が多数寄せられ、10月10日には、取り下げられることとなりました。

 

IPA日本支部と日本冒険遊び場づくり協会では、本条例改正案が「子どもの遊ぶ権利」の侵害につながる内容でしたので、その懸念点について明らかにした共同声明を緊急発出しようと準備しておりました。

 

改正案そのものは取り下げられましたが、本条例改正に反対する意見の多くは大人の状況から述べられていましたので、私たちは「子どもの遊ぶ権利」や「子どもが遊び育つ」観点から声明を発出することに意義があると考え、共同で発出することといたしました。

 

両団体の会員の皆様におかれましては、埼玉県だけの問題ではなく全国各地でも起きうる事態であるという認識で本共同声明をご一読いただき、子どもを含めたすべての人々が地域のなかで安心して暮らしていける社会を目指して活動していきましょう。

 

敬具

 


本文

2023年10月11日

「埼玉県虐待禁止条例の一部を改正する条例案」に関する共同声明

 

IPA(子どもの遊ぶ権利のための国際協会)日本支部 代表 梶木典子

特定非営利活動法人日本冒険遊び場づくり協会           代表 関戸博樹

 

 

 私たち、IPA(子どもの遊ぶ権利のための国際協会)日本支部と特定非営利活動法人日本冒険遊び場づくり協会は、日本の子どもの遊ぶ権利の保障と、地域で子どもたちが自由に遊び育つ豊かな社会の実現をめざし、全国に遊び場や遊ぶ機会がひろがることを支援する活動をしています。

 10月6日に埼玉県議会福祉保健医療委員会で可決された標記改正案は、10日には取り下げとなりましたが、第6条に加えるとされた「児童の放置の禁止等」や、第8条に加えるとされた「通告の義務」の条文案は大人による子どもの管理・監視を強め、子どもの主体的な活動を妨げる可能性があり、子どもの遊ぶ権利を侵害する内容でした。

 今後、地域全体で子どもを育てる社会の実現を図るためにも、この条例案のどの部分に懸念があったのかを明らかにする必要があると思い、2団体により共同声明を発表することといたしました。

 

 子どもは遊び育つ


子どもは遊ぶことによって自分が何者であるかを知り、そして自己をかたちづくることができるようになります。つまり、遊びとは子どもがこれからの人生を「自分の時間」として生きていくための本能的な営みで、子どもの多様な育ちや学びの機会として重要なものです。

子どもが育つためには、ただ安全な場所に囲って、保護しておくことだけでは不十分です。子どもは遊ぶことで自ら育ち、時に挑戦をしながら心と身体を育てていきます。すなわち、遊びの中で時には「危ない」体験をしつつも、その経験が自らのリスク管理の力を育てていくのです。

この大切な「子ども時代」は「遊ぶ」ことによって「今」という時間に目一杯向き合う時期であり、大人になるために何かができるようになったり、そのための準備をするものであり、決して時間を浪費するものではありません。つまり、純粋に子どもとして生きてこそ「大人」になれるのです。

 

過度な保護は子どもに対する権利侵害となる


遊ぶことで自ら育つ子どもにとって、子どもの最善の利益や適切な発達に資する環境が必要です。遊ぶ権利は、子どもが自分の住む地域に対して一番初めに求めるものです。だからこそ、私たちが推進する遊び場や居場所の多くは、子どもが自分で選択し、自分の足で行くことのできる場所を目指しています。

地域の中で遊び育つ環境を整備する以前に、また日中の見守りが叶わないような保護者の労働環境改善への取り組みがないままに、保護者の見守りの不足を「放置」とみなすという条例を定めることは問題の本質を見誤っているものと考えます。この改正案の元では、保護者が通報を恐れ、子どもが本来欲している環境ではない場所に閉じ込めてしまうという、新たな虐待が生じかねません。そして、子どもにとっては遊び場や居場所を奪われてしまうことになるでしょう。

また、子どもは「子ども社会」を生きることにより、心身ともに成長することが必要であり、常時大人の監視下にあることは、子どもの主体性や社会性の育ちを脅かすものです。子どもの遊びは、異年齢の多様な子どもたちの集団のなかで発生し展開していくものです。大人は少しのリスクでも止めに入ってしまいがちであり、子どもの遊びを阻害してしまうことがあります。過度な大人による(子どもの)管理は、子どもの遊びを阻害し、子どもが自ら育つ機会を奪ってしまうことにもなりかねません。

さらに、近年子どもの外遊びの機会が減少しており、社会的な問題となっています。この改正案では、子どもの外遊びの機会がより減少し、状況がさらに悪化することにつながる恐れがあります。

 

必要なことは「遊び育つ子どもを見守る寛容な地域」


私たちは、日本の子どもの遊ぶ権利の保障と、地域で子どもたちが自由に遊び育つ豊かな社会の実現をめざし、全国に遊び場や遊ぶ機会がひろがることを支援する活動をしてきました。

なかでも埼玉県は「子供の居場所(子ども食堂、学習支援教室、プレーパーク)」として地域全体で子どもを育てる社会の実現を図るため、子どもの居場所の増加に向けた取組に力を入れてきていました。そこには、子どもが遊び育つ地域をつくるために、人と人がつながりあう工夫を凝らし、遊び心を持ちながら場を一緒につくっていく営みがあります。「一人の子どもを育てるには一つの村がいる」という言葉はアフリカのことわざですが、子育ては家族だけでなく周囲の協力を得ながら成り立つものということを言っており、普遍的なことなのです。

保護者が周囲から「虐待をしていると見られるのではないか」と恐れながら暮らすことより、保護者自身が地域に支えられているという実感を持つことこそが、虐待の予防につながると考えます。

 

子どもの意見を聞き、取り入れることの大切さ 

 

本年4月に発足したこども家庭庁では、こども基本法に基づいて政府全体のこども施策の基本的な方針を決める「こども大綱」の策定に取り組んでいます。こども大綱に関する意見募集の呼びかけの中でも「こどもまんなか社会をつくるためには、こども・若者、子育て当事者、学識経験者、地域でこどもに関する支援を行う民間団体等の関係者の皆さんから意見を聴き、それを政策に反映することが何よりも大切です。」と謳われています。

 今回の改正案についても、こども基本法に則り、当事者である子どもたちへの説明と意見表明の機会の確保と尊重、そして結果についてのフィードバックなどのプロセスを踏む必要があると認識しています。

 

埼玉県を子どもの虐待がない地域にしていくという決意は素晴らしいものです。そのためにも、ぜひ、子どもをはじめ、子どもを取り巻く保護者や地域の活動者、そして埼玉県や市町村との対話を改めてスタートして欲しいと願っています。

以上